研究概要 |
ラット(Sprague-Dawley系、male)の動静脈にカテーテルを入れた後に覚醒させ、局所麻酔薬による痙攣の観察、およびその際の血中濃度と脳内の濃度を測定できるモデルを作成し、P-glycoprotein阻害薬が痙攣発生閾値に与える影響を検討した。先ずP-glycoprotein阻害薬としてサイクロスポリンとキニジンを用いたが、サイクロスポリンは強い血管収縮作用のために異常高血圧と代謝性アシドーシスを生じ、in vivoの実験には用い難いことが判明した。次にキニジンを用いたが、これによって低血圧が生じ、リドカインの薬物動態に大きな影響が生ずるため、昇圧薬を用いて血圧の維持につとめた。その結果、キニジンはリドカインによる痙攣の発生に影響は与えなかったが、ブピバカインの場合はキニジンを用いることによってより低い濃度で痙攣が誘発されることが判明した。また、この際に脳内の濃度はキニジンを加えない場合と相違がないことから、キニジンはP-glycoproteinを阻害した結果、ブピバカインの脳への移行を促進したと考えられた(Funao T, Oda Y, Tanaka K, Asada A. The P-glycoprotein inhibitor quinidine decrcases the threshold for bupivacaine- induced, but not lidocaine-induced, convulsions in rats. Can J Anaesth 2003:50(8),805-811)。なお今後はPSC-833等、他のP-glycoproteinを用いた実験を予定している。 次にブピバカインによって生ずる高血圧を、降圧薬でコントロールすることにより、局所麻酔薬による痙攣が生じにくくなることが判明したことから、そのメカニズムを明らかにすることに努めた。降圧薬として作用機序の異なるフェントラミン(α遮断薬)およびニカルジピン(カルシウム拮抗薬)を投与して、ブピバカインによる血圧上昇を抑制したところ、ともに痙攣発生閾値が上昇した。しかし痙攣発生時の血中、脳内のブピバカインの濃度はこれらの薬物によって影響を受けなかったことから、痙攣閾値の上昇は、降圧薬によって末梢血管が拡張した結果、血管内容量が低下しブピバカインの血中濃度の上昇が抑制されたからであることが判明した(Oda Y, Funao T, Tanaka K, Asada A. Vasodilation increases the threshold for bupivacaine-induced convulsions in rats. Anesth Analg 2004:98(3):677-682)。
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