今年度はGABA受容体作用物質であるミダゾラムの頚動脈小体に対する薬理学特性を最終的に結論付けるために海外共同研究者と共に解析を進めた。海外共同研究者のチームは麻酔薬であるプロポフォールで同様の検討を行なったので、その成果を参考に得られたデータを再検討した。その結果、ミダゾラムは頚動脈小体の1)高酸素状態下における基礎的活動電位、2)低酸素暴露に対する活動電位の反応性の増加を用量依存的に抑制することが明らかとなった。これは前年度までに得られた知見であるが、特に今年度に明らかとなったのは後者の反応が統計学的な有意差をもって抑制されたことである。前年度まではむしろ前者の方が有意に抑制されると考えていたが、頚動脈小体の低酸素換気応答がミダゾラムにより有意に抑制されることがわかった。本研究で注目すべき点は、1)ミダゾラムが中枢神経ではなく、呼吸性末梢受容体を介して呼吸抑制作用を持つことを見出したこと、2)その抑制作用が高酸素状態における基礎的活動電位のみならず、3)低酸素換気応答も有意に抑制したことである。特にミダゾラムが低酸素換気応答を末梢受容体レベルで抑制するということは新しく臨床上も重要な知見である。 ただし、頚動脈小体にはGABA_B受容体の存在は示唆されているがGABA_A受容体の存在は認められていないので、GABA_A受容体作動性であるミダゾラムがどのような機序により以上の作用をもたらしたのかは今後の検討課題である。さらに、その作用部位が頚動脈小体と頚動脈洞神経との神経伝達なのか、頚動脈小体の酸素感知機構に直接影響を及ぼしたのかも検討すべき重要な課題である。 本研究により酸素感知機構には末梢受容体レベルでミダゾラムに影響されるシステムが存在することが示唆された。今後は実験系を発展させて酸素感知機構の最終的な解明をして行く。
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