吸入麻酔薬の麻酔作用の用量反応曲線は、EC_<50>(MAC:最小肺胞内濃度)前後で急激な立ち上がりを示し、Hill係数は20〜30と言われている。一方、酵素反応・イオンチャンネルなど細胞機能に対する吸入麻酔薬の作用の用量反応曲線のHill係数は3以下である。麻酔薬の個々の要素に対する協同性の小さい用量反応曲線と、生体に対する協同性の高い用量反応曲線の間の乖離は、麻酔作用機序を解く鍵のひとつである。 <平成14年度の成果>MACに関係する神経ネットワークの最も簡単な数理モデルを作成し、全身麻酔薬の作用の用量反応曲線を検討した。 1.モデル:MACと関係する神経ネットワークを次のようにモデル化した。AからBへ信号が伝わる経路がm個ある。個々の経路にはn個の伝達単位が関係する。AからBに信号が伝わったときに刺激に対する反応がある。麻酔薬の作用を以下のように考えた:麻酔薬は個々の伝達単位に作用して伝達を遮断しようとする。経路内の伝達単位がひとつでも遮断されると、その経路は伝達できなくなる。AからBへの全ての経路が遮断されると反応がなくなり麻酔状態となる。麻酔薬の個々の伝達単位に対する50%有効濃度(<EC_<50>>^<unit>)、生体全体に対する50%有効濃度(<EC_<50>>^<system>)、麻酔薬濃度を用いて麻酔状態となる確率確率を表す式を導出した。 2.結果:m=10000、n=100のときHill係数10と同様の高い協同性を示し、<EC_<50>>^<unit>/<EC_<50>>^<system>>=9.95であった。 3.考察:1)麻酔薬の個々の単位に対するHill係数が1の場合でも、広い場に影響するときは、高い協同性をしめす。2)個々の単位に対する麻酔薬の影響が非常に小さいにも関わらず、生体全体への影響は大きくなる可能性がある。
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