吸入麻酔薬の麻酔作用の用量反応曲線は、EC50(MAC:最小肺胞内濃度)前後で急激な立ち上がりを示し、Hill係数は20〜30と言われている。一方、酵素反応・イオンチャンネルなど細胞機能に対する吸入麻酔薬の作用の用量反応曲線のHill係数は3以下である。麻酔薬の個々の要素に対する協同性の小さい用量反応曲線と、生体に対する協同性の高い用量反応曲線の間の乖離は、麻酔作用機序を解く鍵のひとつである。 1)MACに関係する神経ネットワークの最も簡単な数理モデルを作成し、全身麻酔薬の作用の用量反応曲線を検討した。この結果、以下の結論を得た。 (1)麻酔薬の個々の単位に対するHill係数が1の場合でも、広い場に影響するときは、高い協同性をしめす。 (2)個々の単位に対する麻酔薬の影響が非常に小さいにも関わらず、生体全体への影響は大きくなる可能性がある。 2)吸入麻酔薬のMACは麻酔薬の種類に関係なく、ほぼ一定の年齢依存(10歳で約7%低下)を示す。神経ネットワークモデルを用いて、年齢によるMACの低下を考察した。その結果、以下の結論を得た。 (1)伝達単位に対する麻酔薬の作用強度が一定でも、神経経路数の減少によりMACが低下する。 (2)このとき、見かけのHill係数も低下し、用量反応曲線の立ち上がりも緩やかになる。 以上の結果は、実際のヒトにおける知見と一致する。神経経路数の減少は、加齢によるシナプスの減少に対応するものと思われる。伝達単位数の影響についてはさらに検討が必要である。
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