研究概要 |
1.ヒト尿路上皮系細胞でのp63の発現様式:初代培養ヒト正常尿路上皮系細胞およびヒト移行上皮癌細胞株を用いてin vitroでのp51/p63の発現を蛋白およびmRNAレベルで検討した結果、正常尿路上皮基底細胞は核にΔNp63アイソフォームを強<発現しており、高分化型移行上皮癌細胞株ではこの発現が維持されているのに対し、低分化型移行上皮癌細胞株では発現が減弱あるいは消失していることを見出した。 2.ヒト正常尿路および尿路移行上皮癌組織におけるp51/p63の発現様式の比較:正常尿路および膀胱腫瘍組織におけるp51/p63の発現を免疫組織化学およびRT-PCR法を用いて比較した結果、正常尿路上皮では基底細胞層から中層にかけて上皮細胞核に特異的にp51/p63が発現しており、しかもΔNp63アイソフォームのみであることが判明した。高分化型・表在性膀胱腫瘍では、この発現パターンが維持されており、低分化型・浸潤性膀胱癌ではp51/p63の発現が有意に減弱ないし消失しており、上記in vitroの実験結果と適合する所見であった。ここまでの成果はAnnual Meeting of the American Urological Association,2002,Orland, USAにてAbstract#464として発表した。 3.膀胱癌組織におけるβ-cateninとp51/p63の発現の関連:浸潤性膀胱癌ではβ-cateninの発現の滅弱が癌の進展に関連することが知られている。われわれは浸潤性膀胱癌でΔNp63発現の減弱がβ-catenin発現の減弱に有意に相関することを見出した。この結果はp51/p63がβ-catenin遺伝子の発現を制御するとの最近の知見に合致するものであり、ΔNp63のdown-regulationがβ-cateninのdown-regulationの原因である可能性が示唆された。以上の成果をBri J Cancer,88:740-747,2003に報告した。 4.浸潤性膀胱癌におけるp51/p63と予後との関連:低分化型・浸潤性膀胱癌において病理学的進達度(pT stage)とリンパ節転移の有無(pN)は確立された予後予測因子である。我々は、上記1〜3)の結果を踏まえて、浸潤性膀胱癌に対して膀胱全摘術を施行された症例についてΔNp63の発現を解析し、ΔNp63発現の減弱が浸潤性膀胱癌の有意で独立な予後規定因子であることを見出した。以上から、ΔNp63の発現減弱は尿路上皮腫瘍の悪性度を示す指標となることが示唆された。この成果はXVIIIth Congress of the European Association of Urology,2003,Madrid, SpainにてAbstract #338として発表した。 5.浸潤性膀胱癌組織おけるuroplakin IIIとp51/p63の発現の関連:さらに、尿路上皮分化の指標としてのuroplakin IIIに着目し、浸潤性膀胱癌組織におけるp51/p63とuroplakin IIIの発現の関連を検討した。低分化・浸潤性膀胱癌においても尿路上皮終末分化のマーカーであるuroplakin IIIの発現が認められる場合があるが、それはΔNp63発現が消失している腫癌細胞に限定されることを見出した。以上の成果をClin Cancer Res,15:5501-7,2003に報告した。
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