研究概要 |
ラットの実験的膀胱発癌モデルを用いて、膀胱前癌病変の可逆性変化について検討したところ、軽度の上皮増殖を示す膀胱組織の可逆性はすべてのラットに観察され、apoptosis indexの増加が認められた。さらに、血管新生抑制剤TNP-470と抗癌剤cisplatinの併用によるapoptosis、細胞増殖と血管新生における変化を観察し、血管新生抑制による膀胱前癌病変可逆性の促進と膀胱発癌の抑制が観察された。 一方、臨床材料を用いて膀胱前癌病変の不可逆的な癌への進展あるいは抑制に関与する因子についての検討も行った。ガレクチンファミリーは比較的最近になって見出されたβ-galactosideに特異性を示すことを特徴とする動物レクチンの一種で、ガン細胞の転移調節、アポトーシスの誘導、免疫応答の調節などに関与している。ガレクチン-1とガレクチン-3については癌化や癌の悪性度との関連がすでにいくつか報告されており、なかでも、ガレクチン-3は種々の悪性腫瘍においてその発現と転移能との相関が示唆されている。96例の膀胱癌の臨床材料を用いて免疫組織化学染色によりガレクチン-1,3,9の発現を調べたところ、浸潤癌において、ガレクチン-1の発現は殆ど認められなかったが、ガレクチン-3の発現はすべての症例で認められた。さらにガレクチン-3は悪性度、深達度の高い症例で発現がより強い傾向が認められた。一方、ガレクチン-1は腫瘍細胞塊の周囲の間質での強い発現が認められ、癌進展への促進因子である可能性も示唆された。また、ガレクチン-9の発現は腫瘍の進達度、細胞の悪性度と負の相関が見られ、粘膜病変のみで異型度の低い細胞では全例に発現しており、癌の進展を抑制している可能性が示唆された。臨床材料での前癌病変の検討は症例が少なく行えていないが、これらの因子が前癌病変を正常化させる因子として作用している可能性が推察された。
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