精子形成過程におけるDNA損傷が、精子形成やその遺伝情報にどのように影響を及ぼしているのか、さらにはDNA損傷と男性不妊との相関についてマウスをモデル動物として解析を行った。具体的には、C57BL/6と、そのバックグラウンドに純化したDNAミスマッチ修復に関与するMsh2遺伝子欠損マウスを利用し、まずは加齢に伴う精子形成能の変化について観察を行った。 また、DNA損傷を増大させると考えられるX線照射を行った個体の精巣についても観察を行った。観察は、未分化なゴニア細胞期、相同組換え期、半数体期、それぞれについてブアン固定した精巣切片を用いて観察を行った。さらに精子形成過程の観察と同時に自然交配および体外受精を行いDNA損傷と実際の妊孕性との相関についても調べた。その結果、DNAのミスマッチ修復に関与するMsh2遺伝子欠損マウスは、C57BL/6に戻し交配した我々の解析において精子形成過程に異状が認められ、その欠損形質においては精巣重量が14週齢以降で野生型と比較して有為に低下していた。HE染色による精巣切片像の観察及びTUNEL法によるアポトーシスの観察の結果、ゴニア細胞およびプレレプトテン期の細胞においてアポトーシスを起こしている細胞が多く観察され、その結果としてvacuolate(中空)となる精細管部分が観察され、そのことが精巣重量の低下の原因となっていることが判明した。しかし14週齢以降のMsh2遺伝子欠損マウスにおいては、精巣重量が野生型の60%程度に低下しているにも関わらず、オスにおける妊孕性は野生型と変わりがなかった。
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