近年、排尿機構や尿路平滑筋の生理・病態に対する分子生物学的アプローチにより神経伝達物質受容体やセカンドメッセンジャーの詳細な解析が進んでいる。しかしながらこのような知見は未だ臨床的には充分反映されておらず、今後はこれらの分子を用いてより特異性の高い治療法が求められてゆくと考えられる。本研究では膀胱・尿道機能にかかわるさまざまな神経伝達物質の受容体遺伝子などを用い、排尿障害の遺伝子治療の開発を行うことを目的としている。 本年はIn vivoでのラット膀胱に対するelectroporationによる遺伝子導入の条件設定を中心に行った。 SDラットを麻酔し、膀胱を露出し、膀胱前面と後面の奬膜下に、27G翼状針を用いルシフェラーゼおよびgreen fluoresence protein (GFP)発現plasmid DNAを注入後、電極にてelectroporationを行った。導入後2、30日目に麻酔下に膀胱組織を摘出し、ルシフェラーゼ活性をルミノメーターで測定すると伴に、膀胱を固定・洗浄後に100μmにスライスしGFP発現を蛍光顕微鏡にて観察した。その結果、ルシフェラーゼ活性を指標としたelectroporationの至適条件は45V、50msec duration、1Hz、8pulseであることが判明した。以後の遺伝子導入についてはこの条件下でおこなうこととした。GFPアッセイでは紫のGFPの蛍光が膀胱の深部の平滑筋筋層内まで観察され、この条件による遺伝子導入が膀胱全体に及んでいることが確認された。さらに、遺伝子を導入された膀胱の組織をHE染色およびTunel染色を行ったが、HE染色では遺伝子注入部に軽度の炎症所見が認められたものの、筋層への影響は認められなかった。さらに、Tunel染色ではアポトーシスを示す細胞は軽微であり、対照と比較しても差は認められなかった。至適条件によるルシフェラーゼ活性は導入後30日目でも有意に確認された。 今回の検討で、ラット膀胱へのIn vivo electroporation法による遺伝子導入が可能であることが示唆され、至適条件が決定された。今後は、機能遺伝子の導入に移行する予定である。
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