腹圧性尿失禁に対する新たな治療法として外尿道括約筋の再生を目指して、ヒト外尿道括約筋衛星細胞を分離培養し、その増殖分化制御機構に関して検討した。 外尿道括約筋組織より抗NCAM抗体を用いたMACS法で外尿道括約筋衛星細胞を分離し、SV40 T抗原を遺伝子導入して長寿化した。5%CO2条件下20%FBS含有Ham's H-10培地にて培養し、無血清培地に交換して24時間後にHGF、IGF-1、b-FGFを添加し、48時間後に細胞数を算定した。その結果、HGFとIGF-Iが外尿道括約筋細胞の増殖を促進した。 ヒト外尿道括約筋衛星細胞は蛋白レベルおよびmRNAレベルいずれにおいてもHGFとIGF-Iを産生しており、無血清培地24時間培養後に中和抗体による増殖抑制について検討したところ、コントロール血清は影響を及ぼさないのに対し、抗HGF抗体および抗IGF-I抗体はいずれも外尿道括約筋衛星細胞の増殖を抑制した。従ってヒト外尿道括約筋衛星細胞はHGFおよびIGF-Iを産生しオートクリン作用によって自己増殖を促進していることが示唆された。 ヒト外尿道括約筋衛星細胞におけるHGFおよびIGF-Iのシグナル伝達機構について検討した。HGFはErk 1/2を5分以内にリン酸化し、2時間経過しても活性化は持続していたが、Aktは5分でリン酸化されるものの2時間後に脱リン酸化されて刺激前に復していた。IGF-IはErk 1/2のリン酸化はみられないが、Aktは5分後にリン酸化され2時間後もリン酸化は持続していた。以上よりヒト外尿道括約筋衛星細胞において、HGFはMAPK経路とPI 3-K経路の両者を活性化するものの主にMAPK経路を介し、IGF-IはPI 3-K経路のみを介してシグナルを伝達していることが示唆された。
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