研究概要 |
ヒト排尿筋におけるムスカリン受容体サブタイプの役割:排尿障害を認めない膀胱癌患者において、膀胱を摘出した正常膀胱、および前立腺肥大症や神経因性膀胱において過活動膀胱を認める症例に対し手術を行った症例における排尿筋組織切片(3x8mm)を用い、organ bathでのカルバコール濃度-収縮曲線を作成した。次にM3-ムスカリン受容体阻害薬(4DAMP),M2受容体阻害薬(methoctramine),M1受容体阻害薬(pirenzepine),M1,M3受容体阻害薬(oxybutynin),非選択的ムスカリン受容体阻害薬(trospium, tolterodine, propiverine)の存在下でのカルバコール濃度-収縮曲線を作成し、各ムスカリン受容体阻害薬の親和性(pA2値)を測定した。その結果、正常膀胱ではM3受容体および非選択的ムスカリン受容体阻害薬の親和性は高かったが、M1,M2選択的ムスカリン受容体阻害薬の親和性は低かった。同様の実験を過活動膀胱症例における排尿筋でも検討したが、各ムスカリン受容体阻害薬の親和性は変わらなかった。したがってヒト排尿筋では、正常、病的(過活動膀胱)状態ともに排尿筋収縮はM3受容体が主に関与していることがわかった。 ヒト排尿筋収縮における膀胱の粘膜上皮およびRho-kinaseの役割:排尿筋の収縮に、Rho/Rhokinaseが関係しているか、またRho/Rhokinaseが膀胱の粘膜上皮に多く存在するならば、膀胱粘膜の存在の有無において排尿筋収縮に違いが見られるかなどを検討した。その結果粘膜上皮存在下では排尿筋収縮は抑制されることが判明した。膀胱粘膜を摘出した排尿筋においては、Rho-kinase阻害薬(Y27362)はカルバコール収縮を抑制しなかったが、膀胱粘膜が付着した排尿筋では、Rho-kinase阻害薬によりカルバコール収縮は有意に抑制した。この結果から、膀胱粘膜上皮には、排尿筋収縮を抑制する因子が存在することがわかった。またRho-kinaseは膀胱粘膜に多く存在し、膀胱粘膜の付着した排尿筋では、カルバコールの収縮はRho-kinase阻害薬により抑制されることが判明した。
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