研究概要 |
移植臓器長期生着の妨げとなる慢性拒絶反応の解明と克服は,現在の移植医療の重要課題である.慢性拒絶反応に関わる免疫系細胞の性質を調べる目的で,腎移植後のバイオプシー試料を用い,T細胞ポピュレーション及びT細胞クロナリティーについて,急性拒絶反応との比較解析を行った. 1.αβ^+T細胞、CD4^+T細胞,CD8^+T細胞の浸潤度 拒絶反応発生時に採取されたバイオプシー試料を用い、RT-PCR法によりαβ^+T細胞、CD4^+T細胞,CD8^+T細胞の浸潤度の多少を検討した。その結果,AR群(8例)及びCR群(6例)は,陰性対照としての1 hourバイオプシー群(7例)に比較し,いずれも有意に高かった.またAR/CR間では差がなかった.慢性拒絶反応の特徴である動脈の硬化・肥厚,コラーゲン沈着などは,非免疫学的反応であるとの見解もある.しかし今回解析した慢性拒絶反応例では,急性拒絶反応と同程度の免疫学的反応が引き金または背景となっていることが示された. 2.Th1/Th2細胞 Th1の指標として測定したIFN-γは,陰性対照群にひかくし,AR群およびCR群でいずれも有意に高かった.AR/CR間では差はなかった.一方Th2の指標としてのIL-4はAR群では全く検出されず,CRにおいてのみ検出された(6例中2例).この結果から、急性拒絶反応と同様,慢性拒絶反応においても,CD4^+Th1活性化→CD8^+CTL活性化が主体経路と考えられるが,Th2が関与する慢性拒絶反応症例も示唆された.症例により,免疫抑制剤の指向性(Th1≒細胞性免疫,Th2≒体液性免疫)を考慮した使用法が必要と考えられた. 3.T細胞クローナリティー 多クローン症例/少クローン症例はAR/CRの双方に観察された.バイオプシーと末梢血間のTCRBV頻度の差はAR群の方がCR群より有意に大きかった.急性拒絶反応では,拒絶反応の場に局在する特定のT細胞クローンが,慢性拒絶反応に比較してより多いことが示唆された.今後、クローナリティーとdirect/indirect allorecognitionとの関係について、さらに検討する必要がある.
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