研究概要 |
ヒト腎細胞癌(RCC)ではこれまでの細胞遺伝学的ならびに分子遺伝学的解析から第3染色体短腕の欠失が高頻度に認められているが,その異常の多くは第3染色体短腕(3p)と他染色体との不均衡型転座によることが明らかとなっている。また,転座相手として第5染色体長腕(5q)が高頻度に関与していることが明らかとなり,この不均衡型転座により染色体長腕の部分増幅が形成されていることが判明した。本研究ではヒトRCCの発生ならびに進展過程における5qの部分増幅の役割を解明することを目的として以下の研究を行った。まず,日本人のRCCにおける5q部分増幅の有無および頻度を出すために90症例のRCCを通常の染色体分析法により解析したところ,60症例において3p欠失が確認された。これらのうち不均衡型転座によるものが53症例,モノソミーが6例,他染色体断片の挿入による欠失が1例であった。不均衡型転座を示した53症例のうちじつに約半数の26症例が5qとの転座であった。5q以外としては第8染色体(5例),第6染色体(4例),第1染色体(3例),第2染色体,第7染色体,第16染色体(各1例)が認められた。不均衡型転座を示した症例のうち12例では転座相手を同定するには至っていない。5qの増幅は3;5転座を持たない症例でも染色体が一本増加するトリソミーとして認められた症例が4例あった。また,染色体の構造異常として3p欠失が認められなかった30症例のうち2例に第5染色体トリソミーが認められた。これらを総合するとRCC全90症例のうち32症例(35.5%)に5q部分増幅が認められたことになる。この結果はヒトRCCの発生ならびに進展過程において5q部分増幅が何らかの役割を担っている可能性を示唆するものである。本研究ではさらに各症例における切断点と増幅領域を決定したが,その結果とRCC細胞株における5q部分増幅領域の解析結果(Yang et al.,2000)とを合わせ考えると5q31-q33領域が共通増幅領域であると考えられる。そこで現在この領域に存在する各遺伝子の発現についてマイクロアレイおよびウェスタンブロツテイング,ノーザンブロッティング法により解析を行っている。さらに5q部分増幅の細胞生物学的意義を調べるために5q部分増幅を持たないRCC細胞に第5染色体を導入する微小核細胞融合実験を試みている。
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