研究概要 |
本研究におけるこれまでの細胞遺伝学的ならびに分子細胞遺伝学的解析から、ヒト腎細胞癌では第3染色体短腕の欠失に伴って第5染色体長腕の部分増幅が高頻度に認められることを明らかにしてきた。これまで第5染色体長腕増幅の役割、とくに予後との関連性に関しては国内外から2つの報告が出されており、これらは全く相反する結果を示している。そこで我々はこの特徴的な染色体増幅の腎癌の発生あるいは進展過程における役割を解明するため,染色体解析の結果をもとに、これまでの症例を第5染色体長腕のコピー数によって分類し、生存率を比較すると共に、第5染色体長腕の共通増幅領域(5q31-q33)に存在する遺伝子についてマイクロアレー法により網羅的に発現解析を行った。その結果、生存率の比較では、腎癌摘出後、129ヶ月で比較すると第5染色体長腕を4コピー以上有する症例では2,3コピーを持つ症例より明らかに生存率が悪い。また、術後60ヶ月で比較すると、同様の傾向に加えさらに、3コピーを有する症例が2コピーの症例よりも良好な予後を示す事が明らかとなった。このことは第5染色体長腕に存在する遺伝子の発現亢進が術後の予後に何らかの影響を与えている可能性を示唆するものである。そこで共通増幅領域に存在する遺伝子群について発現を解析した。その結果、正常腎細胞ではCSF1,FGF11,IL-19の顕著な発現が確認された。一方、第5染色体長腕を2コピー持つ癌細胞ではFGF11,IL-19の発現に加え、6種類(AIF1,BMP6,FGF17,FIGF,IL-6,TNF)の発現が認められた。また、3コピーおよび4コピー以上を持つ腎癌ではAIF1,FGF6,FGF9,FGF10,FGF11,FGF17,FIGF,IL19,TNFの発現が共通して認められた。さらに3コピーを持つ症例のみにIL9,IL22の発現が特徴的に確認された。このことは、IL-9,IL-22の発現が3コピーを持つ症例の良好な予後と何らかの関連性が有ることを示唆している。とくにIL-9はTh2リンパ球を刺激し、免疫系を活性化することが知られており、IL-9の発現によって癌患者における抗腫瘍反応が活性化され、癌細胞の増殖に対して抑制的に作用している可能性が考えられる。しかしながら、第5染色体長腕を4コピー以上有する腫瘍では他の遺伝子の発現が共通しているにもかかわらずIL-9,IL-22の発現が確認されておらず、そのメカニズムについては現段階では不明である。
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