研究概要 |
胎盤由来Ca2+依存性リン脂質結合蛋白のひとつであるannexin Vは,protein kinase C(PKC)活性を抑制し,細胞の分化・増殖,細胞内情報伝達に関与するが,その発現機構は不明である.蛋白合成阻害剤であるcycloheximide(CHX), anisomycin(ANI)はc-fos, c-junなどある種のmRNA発現を強力に誘導し、この現象はsuperinductionと称されている.本研究ではsuperinductionに着目し,各種癌細胞株におけるannexin Vの発現ならびに発現機構について検討した.まず,LightCyclerを用いたTaqMan法によるOno-step real-time quantitative RT-PCR法を確立しannexin V mRNAを定量した.24時間のCHX刺激は各種癌細胞株(MCAS, HHUA, MCF7,T47D, TYK, OVK18,T47D)におけるannexin V mRNAをsuperinduceした.同様にANI刺激は癌細胞株(MCAS, HHUA, MCF7)におけるannexin V mRNAをsuperinduceした.特に卵巣癌細胞株MCASにおいてはPKC activator(12-0-tetradecanoylphorbol-13-acetate ; TPA)刺激は,CHXによるsuperinductionを増強し,PKC inhibitor(bisindolylmaleimide I)とRNA synthesis inhibitor(actinomycin D)により抑制された.また,ANIはmitogen-activated protein kinase(MAPK)の強力なactivatorでもあり,MCASにおけるannexin V発現とMAPKとの関係についてWestern blotting法とquantitative RT-PCR法を用いて検討した.ANI刺激によりERK1/2,p38 MAPKは5分後からリン酸化を認め,そのリン酸化は24時間後まで続いた.また,ERK1/2 inhibitor(PD98059,U0126), p38MAPK inhibitor(SB203580)によってそれぞれのリン酸化が抑制された.ERK1/2 inhibitorsはannexin V mRNAのsuperinductionを抑制したが(PD98059;50%, U0126;9.8%), p38 inhibitorは抑制しなかった.以上より,MCASにおいて(1)蛋白合成阻害剤(CHX, ANI)はannexin V mRNAをsuperinductionする.(2)CHXによるannexin VのsuperinductionはPKCを介して増強され、かつmRNA転写レベルの活性化による.(3)ANIによるannexin VのsuperinductionはERK1/2 signal pathwayを介したsignal伝達の活性化によることが示された.
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