研究概要 |
ヒト羊水由来bikuninは毒性がなく進行卵巣癌患者への注射により標準治療よりも良好な5年生存率を示すことを報告した。しかし、毎日患者にbikuninを注射しなければならず患者のQOLの低下をきたすおそれがある。そこで、患者筋肉組織などにbikunin遺伝子を組み込んで定常的にbikunin蛋白を発現することができれば外因性にbikuninを注射しなくてもよいことになる。 まず、悪性度の高い卵巣癌細胞HRAにbikunin遺伝子を導入すると癌細胞の性格がどのように変化するかを検討した。その結果、(1)HRAにbikunin遺伝子を導入して5つの安定クローンを得た。これらの細胞からはbikunin蛋白が産生されることをWestern blotにより確認した。(2)このbikunin遺伝子導入株はすべてウロキナーゼmRNA発現が抑制されていた。(3)bikunin遺伝子導入株のMAP kinaseリン酸化、例えばERK1/2リン酸化は野生株と比較すると低下していた。(4)bikunin遺伝子導入株からbikunin産生を抑制するとこれらの生物活性(ERK112リン酸化、ウロキナーゼ産生抑制)は消失した。(5)in vitro癌細胞浸潤実験でbikunin遺伝子導入株による浸潤能低下を認めた。(6)bikunin遺伝子導入株と野生株でヌードマウスに癌性腹膜炎モデルを作成した。癌性腹膜炎の程度、横隔膜下の転移、血性腹水の程度はbikunin.遺伝子導入株で抑制されており、担癌マウスの生存期間はbikunin遺伝子導入株で有意に延長した。(7)担癌マウスにより効果のあるbikunin改変体遺伝子を導入した系を作成し、bikunin遺伝子導入株と同様の手法で、野生株を移植したときと、癌性腹膜炎の程度、横隔膜下の転移、血性腹水の程度はbikunin改変体遺伝子治療群で抑制されるかどうか、また、担癌マウスの生存期間も延長するかどうか検討した。その結果、TF-HI8はbikunin, HI-8に比べてより強力ながん転移あるいは腹膜播種抑制効果を発揮した。
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