研究概要 |
マウスES細胞の自己複製に、転写因子であるOct3/4が重要である(Nature genetics 25:372-376,2000)。すなわちOct3/4の発現レベルが上昇すると、ES細胞は原始内胚葉へ分化し、Oct3/4の発現レベルが一定であると、ES細胞は未分化状態を維持する。逆に、Oct3/4の発現レベルが下降すると、ES細胞は胎盤になる栄養外胚葉に分化し、転写因子であるCdx2,Hand1の発現が誘導される。また、Cdx2の下流にあると考えられる転写因子Id-1が、絨毛細胞(trophoblast)のstem cellとしての維持に関与していることが示唆される。そこで我々は、絨毛癌細胞の未分化状態と分化状態でのId-1の発現量の変動と、Id-1の上流域を含むreporter遺伝子を用いたluciferrase assayを検討したところ、Id-1は未分化状態でその発現が強くみられ、その維持に転写因子Sp1が関与する可能性が示された。 また、低酸素状態で誘導されるhypoxia inducible factor(HIF)-αが絨毛細胞の分化誘導に関与することが指摘されている(J.Clin.Invest.105:577-587,2000)。低酸素が絨毛細胞の分化機構に及ぼす影響を検討する目的で、分化誘導因子のマーカーとしてGLUT(glucose transporter)1について絨毛癌細胞で検討したところ、HIF-αによってGLUT1が誘導されることを見いだし、現在論文投稿中である。 最近になって、bone morphogenetic protein 4(BMP4)がES細胞からTS(trophoblst stem)細胞への分化誘導因子である可能性が示唆された(Nat.Biotechnol.12:1261-4,2002)。絨毛細胞の分化機構の一端を明らかにするために、BMP4の添加より絨毛癌細胞において、絨毛性ゴナドトロピン(hCG)の分泌が増加するか検討を続けている。
|