研究概要 |
(目的)近年,ホルモン補充療法(HRT)は心血管疾患(CVD)の発症やイベントを増加すると報告されている。経口のestrogen補充(ERT)は脂質代謝を改善する反面,直接肝循環を通過するため,中性脂肪(TG)の増加がLDLを小粒子化し,動脈硬化の進展やプラークの破綻に密接に関与する小型LDLを産生する。一方,経皮的ERTはTGを低下させるのでLDLの小粒子化が抑えられる可能性がある。本年度の日的は,経皮ERTがLDLの粒子径および被酸化性に与える影響を検討し,経口ERTの場合と比較することである。 (方法)同意を得た閉経後女性を対象とし,経口で結合型estrogen 0.625mgを連日あるいは経皮的にestradiol patch 0.72mgを隔日に3ヶ月間投与した。治療前後において,1)総cholesterol(TC),TG,HDL-cholesterol(HDL-C),LDL-C濃度を測定した。2)LDL粒子径を電気泳動法で測定した。3)LDLをCu添加により酸化させ,脂質の最終酸化代謝産物であるTBARS濃度を測定し,LDLの被酸化性の指標とした。 (成績)1)経口ERTにより,TC,LDL-Cは減少し,TGとHDL-Cは有意に増加した。経皮ERTはTC,HDL-Cに影響しなかったが,TGは逆に有意な低下を示した。2)LDL径は経口ERTで有意に減少したが(26.08±0.96 vs 25.59±0.91nm),経皮ERTでは逆に有意に増加した(25.63±0.73nm vs 25.90±0.72nm)。3)TBARSは経口ERTでは変化なく,経皮ERTで有意に減少した(17.3±4.8 vs 14.9±4.6nM/200μg)。ERTによるLDL径の変化はTGの変化(r=-0.51)およびTBARSの変化(r=-0.50)と有意な負の相関を示した。 (結論)経口ERTではTG増加がLDLを小粒子化するが,経皮ERTはTGを減少することで,LDLを酸化されにくい大型粒子に変化させることが示された。従って,最近報告されているHRTによるCVDリスクの増加は投与ルートを経口から経皮に変更することで回避できる可能性が示唆された。
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