研究概要 |
(目的)近年,ホルモン補充療法(HRT)は心血管疾患(CVD)の発症やイベントを増加すると報告されており,HRTには抗動脈硬化作用のみならず動脈硬化促進作用も有すると考えられる。我々のこれまでの研究によれば,経口HRTは高感度CRPを増加させるなど炎症促進作用を有し,プラーク破綻に促進的に作用する可能性が考えられる。本年度の目的は,経口HRTが血管炎症に促進的かどうかを検討するとともに,経皮HRTが血管炎症マーカーに与える影響も検討し,経口の場合と比較する。 (方法)同意を得た閉経後女性を対象とし,経口で結合型estrogen 0.625mgを連日あるいは経皮的にestradiol patch 0.72mgを隔日に3ヶ月間投与した。治療前後において,(1)血管炎症マーカーとして高感度C-reactive protein (CRP),血清アミロイド蛋白A(SAA),interleukin-6を測定した。(2)接着因子としてvascular cell adhesion molecule (VCAM)-1,intercellular adhesion molecule(ICAM)-1,E-selectinを測定した。(3)プラークの線維性被膜の脆弱化に関与するmatrix metalloproteinase (MMP)-1,3,9およびその抑制蛋白のtissue inhibitor of MMP-1(TIMP-1)を測定した。 (成績)経口エストロゲン群では高感度CRP,SAA,interleukin-6,MMP-3を上昇,TIMP-1を低下させた。また,E-selectinは低下させたが,VCAM-1,ICAM-1に変動を認めなかった。一方,経皮エストロゲン群では高感度CRP,SAA,interleukin-6,MMPにはいずれも有意な変化がなく,TIMP-1は逆に増加した。また,E-selectin,VCAM-1,ICAM-1は全て有意に低下した。 (結論)経口エストロゲン投与は血管炎症を亢進させるため,線維性被膜を脆弱化し,プラークの破綻に促進的に作用する可能性が示唆された。一方,経皮エストロゲン投与は炎症マーカーに影響せず,接着因子を抑制するとともにTIMP-1を低下させることから,プラークの安定化に働く可能性が考えられた。従って,経皮エストロゲンは経口の場合とは異なり,CVDリスクに抑制的に作用する可能性が示された。
|