研究概要 |
(1)婦人科悪性腫瘍におけるRCAS1発現の意義:我々がクローニングしたアポトーシス誘導因子RCAS1は婦人科悪性腫瘍において高頻度に発現していることを以前から報告してきた。147例の子宮体癌症例を用いた検討を行ったところ、RCAS1の発現と臨床病理組織学的因子の臨床進行期、筋層浸潤、腹腔細胞診陽性との間に統計学的相関が認められた。さらに多変量解析の結果、RCAS1発現は転移とともに独立した子宮体癌予後因子であることが認められた(Sonoda K, et al. British Journal of Cancer)。 (2)腫瘍対間質相互作用におけるRCAS1発現の意義:RCAS1発現の臨床的意義を踏まえ、RCAS1発現の癌増殖・浸潤・転移における役割について基礎的解析を行った。(1)子宮癌症例においてはRCAS1発現と腫瘍サイズとの間に正の相関が認められた。次に、浸潤・転移機構において腫瘍細胞と間質構成細胞との相互作用に着目し検討を行ったところ、子宮癌症例での免疫組織学的解析において、(2)腫瘍間質のリンパ球アポトーシスと腫瘍のRCAS1発現とは相関していたが、他のアポトーシス誘導因子TNF-α、Fas-Lとの間には相関は認められなかった(投稿中)。(3)腫瘍間質線維芽細胞の数量的変化について解析を行ったところ腫瘍のRCAS1発現亢進にともない線維芽細胞数の減少が認められたが、TNF-α、Fas-Lとの間には相関は認められなかった。さらに、浸潤に関与する他分子およびRCAS1発現との関連についても検討した(投稿中)。以上はRCAS1発現が腫瘍の浸潤・転移に関連する分子であることを示唆するが、(4)腫瘍でのRCAS1発現と血管誘導因子VEGF発現が相関するデータが得られており、RCAS1は腫瘍間質の変化を来たし腫瘍対間質相互作用において腫瘍悪性度を増強させる重要な分子であることが考えられる。(5)さらに血清中のRCAS1分泌動態について検討したところ、担癌患者では健常者に比し、有意に高値を示した。治療経過により治療奏効例では血清RCAS1値の低下傾向を、一方治療抵抗例および再発例では血清RCAS1値の上昇傾向を認めた。また血清に分泌されるRCAS1は受容体発現細胞株であるK562細胞の増殖抑制を誘導し、RCAS1は新しいbiomarkerであることが示唆された。 (3)分子細胞生物学的手法を用いた解析:(1)RCAS1を発現するSiSo細胞からRCAS1高発現細胞株を樹立した。さらに、RCAS1遺伝子のtrancation mutantを複数種作成し、RCAS1 mutantを遺伝子導入により発現した細胞の樹立を行った。(2)RCAS1を発現していないCos7細胞株にRCAS1遺伝子を導入しヌードマウスに移植したところ、腫瘍形成能が認められた。RCAS1遺伝子導入によって誘導された細胞内シグナル伝達機構の変化について解析したところ、MAPKのリン酸化が強く誘導されていた。(3)RCAS1はTPA処理により分泌が亢進し、GM6001処理により分泌が抑制されることから、RCAS1はshedding機構により分泌されることが確認された。
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