研究概要 |
子宮内膜症の発育増殖とHepatocyte Growth Factor (HGF)およびMacrophage (Mφ)の関係を検討した。子宮内膜症病巣をcolor appearanceにより3つに分類(red, black, white lesion)し、各々の活性化状態を病巣組織中並びに腹水中のHGFおよびそのreceptorであるc-Met,IL-6,VEGFなどを測定した。その結果、腹水中のHGF,IL-6,およびVEGFはすべてred lesion優勢病巣を有する症例で有意に高値を示した。またred lesionをopaqueとtransparent(translucentを含む)に分けて検討してみるとopaqueの方が明らかに高値を示したが、transparentとblack lesionとの間に差を認めなかった。色調の変化は出血病巣における赤血球内の血色素の変化に起因することを考慮に入れれば、内膜症病巣は透明病変→不透明病変→黒色病変→白色病変へと変化することが示唆された。また組織中のHGF,c-Metを検討した結果、腹水と同様、red lesionに最も多くのHGFが存在し、次いで黒色、白色病変の順に含有量は低下した。このことは病巣の活性化はcolor appearanceによって異なることを示唆している。正所性子宮内膜組織中のHGF,c-Metの含有量は正常例に比し、子宮内膜症において有意に高い。このHGF,c-Metの各々のmRNAは子宮内膜間質細胞に発現していることをRT-PCRにて確認した。またHGFはHELA細胞および子宮内膜間質細胞の増殖を促した。これらの事よりHGFは子宮内膜組織においてautocrineおよびparacrine growth factorの性格を発揮し、上皮一間葉相互作用のmediatorとして子宮内膜症病巣の発育・進展を促す可能性が示唆された。内膜症病変とMφ(CD68染色)の浸潤の関係では、red lesionで最も多く出現し、次いで黒色病変および白色病の順に低下した。同様の検討を正所性子宮内膜症組織で検討した結果、増殖期および分泌期ともに子宮内膜症では対象と比較し、有意に多くのMφが浸潤していた(子宮内膜症;増殖期内膜41.0±7.4,分泌期内膜55.0±11.0および対照;増殖期内膜25.5±5.0,分泌期内膜38.5±7.0,内膜症vs対照P<0.01)。内膜症の腹水中のMφの増加は正所性子宮内膜浸潤Mφの腹腔内流入によることが示唆された。組織中のMφ浸潤の程度はHGFとc-MetmRNAの発現が認められたことよりMφも内膜症の増殖発育因子の1つと考えられた。
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