ヒト精子におけるカルシウム依存性システインプロテアーゼであるカルパインの存在と受精能に対する関与を検討した。 被検者同意のもとに健常男性精子を実験に供した。HTFを用いイオノマイシン添加による精子内カルシウムイオン濃度をFura2-AMとFruo3-AMを用いた蛍光顕微鏡及び共焦点レーザー顕微鏡で観察した。カルパインの存在及び活性動態を種々の普遍的及び組織特異的カルパイン抗体を用いSDS-PAGE、ウエスタンブロット法で検討した。カルパイン活性は膜透過型蛍光合成基質(Suc-Leu-Leu-Val-Tyr-AMC)を用い蛍光マイクロリーダーで測定した。カルパインの受精能への関与をカルパイン阻害剤(Z-Leu-Leu-H)又は新規カルパイン阻害剤(CX-295)の添加実験で検討した。精子運動率は自動解析装置(HTM-IVOS)で、精子先体反応はアクロビーズテストで、精子受精能はハムスターテストで検討した。 ヒト精子に普遍的カルパイン1及び組織特異的カルパイン5の存在が認められた。イオノマイシン添加により精子内カルシウムイオン濃度が上昇しカルパイン活性が増加した。その活性はいずれの阻害剤でも濃度依存的に抑制された。精子運動率は影響を受けなかったが、精子先体反応率と精子侵入率がいずれのカルパイン阻害剤でも濃度依存的に有意に(P<0.05)抑制された。 ヒト精子のカルパイン1及び5が精子先体反応に関与することで、受精において重要な役割を演じている可能性が示唆された。
|