本研究は妊娠中毒症(中毒症)抵抗血管で発生しているプロスタグランディンの機能異常における活性酸素種の役割を明らかにするとともに血管における超微構造の変化を見出すことを目的として行った。研究方法は帝王切開時に同意を得られた患者から大網を摘出、抵抗動脈標本を得て以下に示す実験を行った。 1.標本の超薄切片を電子顕微鏡にて観察したところ、正常血圧妊婦血管に比較して中毒症血管では基底膜や内弾性板の変化が認められた。この変化は血管透過性の障害を惹起している可能性を示唆した。 2.内皮温存標本を作製し、等尺性に張力を測定した。L-ニトロアルギニン(L-NNA、NO阻害薬)存在下にてブラジキニン(BK)のトロンボキサン類似薬による収縮に対する弛緩作用は正常血圧妊婦血管に比較して減弱していた。この弛緩の差異はL-NNA+ジクロフェナック(DF、シクロオキシゲーナーゼ阻害薬)の存在により消失した。この結果より、中毒症血管において内皮由来PGI_2の反応性が低下していることとNOやPGI_2以外の弛緩反応(EDHF)は維持されていることが示唆された。一方、ベラプロスト(PGI_2アナログ)の反応は両者にて差を認めなかった。BKによるの6-keto-PGF_<1α> (PGI_2代謝物)濃度をEIA法にて測定したところ、PGI_2産生量がrestingな状態でもBK添加後でも減少していた。すなわち、中毒症血管における内皮由来PGI_2の反応低下は血管に壁におけるPGI_2産生低下であることが判明した。これまで、中毒症におけるPGI_2産生低下の報告は、血液中や尿中のPGI_2濃度の測定など間接的な証明であったが、大網抵抗血管において直接証明し得た。 3.微少電極法により内皮温存標本における血管平滑筋の膜電位の差異を検討した。正常血圧妊婦血管と中毒症血管の平滑筋細胞の静止膜電位は等しく、また、BKによる内皮依存性の膜過分極反応の大きさは同程度で、その反応はともにK^+チャネル阻害薬によって完全に消失した。本検討により、電気生理学的研究によりEDHFは中毒症血管で維持されていることを確認し得た。
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