研究分担者 |
岩田 壮吉 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (50203386)
久慈 直昭 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (80169987)
吉村 泰典 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (10129736)
前田 太郎 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (90327594)
田島 博人 慶應義塾大学, 医学部, 助手 (30317193)
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研究概要 |
生殖障害に関して,特に造精機能障害を伴う重症男性不妊を主徴とする生殖障害の原因としてのこれらのメカニズム及び遺伝子発現状況とその意義について解明することを目的とした。Doxorubicin (DXR)の低容量,長期投与による配偶子形成抑制モデルマウスを作製した。0.15mg/kgのDXRを2回/週を5週間腹腔内投与し,精巣重量抑制,maturation arrestの組織像を呈する実験モデル動物を作製して分析に供した。これに対して以下の病態分析を行った。(1)Spermatogoniaの分化に関与する受容体型チロシンキナーゼレセプターc-kitについて抗マウスc-kit抗体(CD117)を用いた,免疫組織化学的によりc-kit陽性細胞の発現を解析した。また,その各々について精巣からgerm cellを抽出し,RT-PCR法によってmRNA発現の有無と相違を比較検討し,生殖能分析を行った。その結果,精巣重壁の60%減少に伴いc-kit及びc-kit mRNA発現の著しい減少を証明した。(2)テロメラーゼ活性を数値化可能で定量性に優れた,Non-RIであるFluorescence-based TRAP法(F-TRAP法)を川いて,マウス精巣細胞のテロメラーゼ活性の定量を行い,この方法の有効性や問題点を検討した。テロメラーゼ活性は長期投与マウスではすでに減少し,細胞死プログラミングの終末像を呈した。(3)組織内におけるアポトーシス細胞の検出のためterminal deoxynucleotidyl transferase (TdT)を用いて,断片化したDNA末端を組織化学的に検出するTUNEL (TdT-mediated dUTP-biotin nick end labeling)法での分析を行った。DXR投与によりアポトーシス細胞の増加を示した。次に,配偶子形成障害モデルに対して,障害を抑制または解除することを日的として,障害メカニズムの制御に作用する薬剤の投与をDXRと同時投与するモデル動物を作製し,同様の病態解析実験に供した。DXRを同様に投与しつつ同時に予備飼育時より15週間TJ41(補中益気湯)1,2,4g/kg,TJ7(八味地黄丸)1,2,4g/kg,GTE(green tea extract)0.2,0.5g/kgを各々経口投与した。さらにDXRは投与せずにTJ41 2g/kg,TJ7 2g/kg,GTE 0.5g/kgを各々単独投与して比較検討し,総計130匹(精巣260個)の検体を分析した。(1)c-Kit及びc-kit mRNA発現はともにDXRによる発現低下を抑制していた。その効果は精巣重量の減少と同様の推移を示したが,とくにTJ41 2g/kg以上において発現低下を全面的に抑制した。(2)テロメラーゼ活性はDXR単独群より高い活性を示した。(3)アポトーシス細胞の数的比較から減少を示した。これらの結果からmaturation arrestの病態像を示すモデル及びその抑制実験においてテロメラーゼ活性の亢進とその後の低下,アポトーシスの亢進が生じ,精子形成の分化過程においてもc-kit mRNA発現の減少を介して障害が発生することを示した。
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