研究代表者はすでに婦人科癌に発現される糖転移酵素・糖鎖遺伝子の生物学的意義に関する研究を行い、平成8-9年度・10-12年度科学研究費基盤研究(C2)などによって子宮体癌の糖転移酵素や糖鎖遺伝子が細胞特性に関与することを糖鎖遺伝子の導入実験などによって明らかにしてきた。多種類の糖鎖遺伝子のなかでH遺伝子は細胞膜非還元末端糖鎖の修飾酵素であるフコース転移酵素遺伝子をコードしているが、癌の生物学的特性に関与することが示唆されている。そこで本研究では近年増加傾向にある卵巣癌についてH遺伝子の関与を解析することを目的として、近畿大学理工学部・岩森正男教授との共同研究にて本年度は卵巣癌株への糖転移酵素遺伝子の導入と、遺伝子導入細胞における糖脂質糖鎖の分析を行なった。まず研究代表者が属する研究室において樹立された卵巣癌株RMG-1を用いてヒトH型遺伝子の導入を行った。なおベクターのみを導入した細胞を対照として、細胞表面の糖脂質糖鎖の変化をH遺伝子導入細胞と比較検討した。その結果、ヒトH遺伝子を導入した細胞は対照細胞に比べ細胞の大きさは縮小する傾向がみられ、また細胞相互の接着は密になった。H遺伝子導入による糖鎖変化に関しては、H遺伝子導入細胞はシアリダーゼ処理によって直接遊離されるシアル酸量が低下していた。したがって、ヒト卵巣癌株にH遺伝子を導入し、フコース転移酵素活性を増加させフコシル化反応を亢進させると、糖脂質糖鎖のなかでシアル酸を付加する反応であるシアリル化反応は低下することが示唆された。以上の結果から、ヒト卵巣癌由来株に導入すると、糖脂質糖鎖のシアル酸量は低下し、細胞の形態や接着能が変化する可能性が示唆された。
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