研究概要 |
平成14年度は哺乳類発現ベクターにヒトH型糖鎖遺伝子(α1,2フコース転移酵素遺伝子)およびマウスα1,2フコース転移酵素遺伝子(MFUT-1,MFUT-2)を挿入し、これをヒト卵巣癌由来培養細胞株へ導入し形質転換し、おもに形質転換前後における遺伝子導入に伴う細胞形態・接着能の変化について検討した。平成15年度はこれら糖鎖遺伝子を導入した形質転換細胞における糖鎖構造の変化に関して定量的に解析した。すなわち、糖脂質は個々の糖鎖構造を区別し定量することが比較的容易であるためヒト卵巣癌細胞にH型糖鎖遺伝子およびMFUT-1,MFUT-2を導入前後の糖脂質の定量的変化を比較検討した。その結果、3種類の遺伝子産物の基質特異性は異なっており、H遺伝子はラクト系列I型糖鎖に、MFUT-1,MFUT-2遺伝子はガングリオ系糖鎖にそれぞれ強い親和性を示した。ヒト卵巣癌由来株RMG-Iは薄層クロマトグラフィー免疫染色法にてLewisX型糖鎖を高濃度に含有していた。H遺伝子およびMFUT-1,MFUT-2遺伝子を導入した形質転換細胞ではα1,2フコース転移酵素活性はコントロールに比べ顕著に増加しており、LewisY型糖鎖の発現が亢進した。また、コントロール細胞で発現が見られたシアリルLewisX型糖鎖やシアリルLc4Cerは形質転換細胞では消失していた。Lewisa型およびLewisb型などのI型糖鎖の発現は形質転換細胞において減少したが、フコシル化I型糖鎖の発現は増加していた。以上の結果からフコース転移酵素の基質であるLewisX型糖鎖の合成活性はLewisa型糖鎖の合成活性よりも強いことが示唆された。さらに5-FUに対する感受性を検討したところ、コントロールに比べ形質転換細胞では耐性細胞が増加していた。したがって、α1,2フコース転移酵素活性の増加に伴う糖鎖変化は抗がん剤耐性に影響を与える可能性が示された。
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