成人の冠動脈疾患においては、冠血流量が低下しても心筋は酸素供給に見合うように心機能を低下させ、虚血代謝変化を生じさせない代償機能が作動する。この状態は心筋ハイバネーションとして知られ、様々なスペクトルの虚血状態を含む可逆的な平衡状態とされる。最近、この心筋ハイバネーションの調節因子としてアデノシンの役割が注目されている。胎児心筋や脳組織におけるアデノシン活性は成人と比較して極めて高く、胎児や新生児心筋で冠動脈閉塞に起因する心筋梗塞は殆ど見られない現象と関与していると推測される。ヤギ胎仔慢性実験モデルを用いた実験では、胎児虚血・再環流ストレスに暴露される状態において、心室血中のアデノシン濃度、5'ヌクレオチダーゼおよびアデノシン・デアミネーゼ活性を検討した結果、アデノシンの効果を増強するとともに、アデノシンの過度の上昇を抑制する調節機構が存在することが明らかになった。同様の胎児ストレスの状況にある妊娠中毒症や子宮内感染、双胎症例においても、胎児は子宮内でストレスが生じた場合、胎児心筋は酸素供給に見合うように心機能を低下させる心筋ハイバネーションが生じ、その調節機構にアデノシンが深く関与していることが明らかになった。
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