研究概要 |
アンドロゲン(A)は精巣内に多量に存在し、性分化、男性機能の保持、造精機能に深く関与している。一般にAは、アンドロゲンレセプター(AR)を介して標的遺伝子に作用する。Aは、精巣では一般に精細管に存在するSertoli cellに作用すると言われているが、ヒトの精巣のgerm cellでは、ARが発現するという報告もあり、Aの精巣での作用機序については未だ明らかでない。本研究では、主としてARを介したAの精子形成過程への影響について検討した。 まず、無精子症及び乏精子症の患者136名のAR遣伝子の点突然変異とExon AのCAG repeat数について検討した。その結果、造精機能障害患者ではARの点突然変異は同定されなかった。また、乏精子症の患者117名においてはCAG repeat数が15以下の症例を9例認めたが、正常男性では認められなかった。 次にAのgerm cellでの作用をみるために、精子のpackingに関係するtransition protein(TP)の発現への影響について検討した。その結果、TP1及びTP2の5'上流領域を用いた発現実験にて、ARのCAG repeat数が22(wild type)の場合は、DHT添加によりluciferase活性の上昇が認められた。一方、ARのCAG repeat数が43,15,12の場合は、DHT添加してもluciferase活性の上昇が認められなかった。さらにそれらの発現に関与する領域をGel mobility shift assayにて検討したところ、TP1では-754--471bpの領域がTP2では-1218--858bpの領域が関与していることが明らかになった。TP1に関しては、抗ヒトAR抗体によりsupershiftは認められなかったのでA-AR complexが直接作用しないことが判明したが、TP2ではsupershiftが認められたので、直接作用することが判明した。さらに、この領域をfootprinting法にて詳細に検討したところ、TP1ではhomeodomainであるdeformed(Dfd)が結合するDfd motifが存在することが明らかとなった。一方、TP2では3つの結合領域が明らかとなり、それらの中にandrogen responsive elementに類似した配列が認められた。 以上のことより、造精機能障害患者におけるARの突然変異は稀であると考えられたが、ARのCAG repeat数の減少と造精機能障害には関連があることが示唆された。Aは精巣において、germ cellではTP1とTP2の発現に関与し造精機能障害には関連があることが示唆された。結果としてAは精巣にてgerm cellに作用して精子形成過程に関与していることが判明した。
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