子宮頸部腺癌は、子宮内膜腺癌とともに、(1)その前癌病変の実体と理解が十分でない、(2)前癌病変に続く発癌過程の詳細が不明である、(3)日本における疫学研究結果と、欧米で重視される発癌素因とが異なる面がある、(4)早期発見のために有用な細胞診による診断が技術的に難しい、など解明、解決すべき共通の問題点が多い。 本年度も、従来より実施している子宮頚部腺癌と子宮内膜腺癌の新鮮臨床材料の収集を継続し相当量の材料を得た。新鮮臨床材料から抽出したDNAについて、microsatellite instabilityに基づく遺伝的不安定性の有無判定、遺伝的不安定性の標的遺伝子であるPTEN、TGF-β Type II Receptor遺伝子、SMAD遺伝子、BAX遺伝子、転写因子E2F、β-catenin等の変異分析を実施した。子宮頚部腺癌、子宮内膜癌については全例、conventional CGH法及びarray-based CGH法を実施して、全ゲノムの遺伝子コピー数の異常について解析した。 これらを通じて、子宮の腺癌である頚部腺癌と子宮内膜腺癌の両者の新鮮材料をもとにして細胞遺伝学的変化の比較検討をした。頚部腺癌では、子宮内膜腺癌で高頻度にみられるPTENのmutationは、ほとんどみられないことが判明した。また、頚部腺癌のCGH解析から、従来から発癌との関連が強く示唆されているHigh risk型のHPV感染以外に、oncogeneとして機能する可能性のある遺伝子座を複数指摘することが出来た。両者の発がん過程を比較解析することにより、子宮頚部腺癌および子宮内膜癌の本態解明に迫り、さらに分子遺伝学的診断および予防治療に応用することが可能と思われた。
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