ムンプス顕性感染症例での抗ムンプスIgM抗体値は、5.1から14.22(平均10.415)と高値を示し(1.2以上:陽性)後述する抗ムンプスIgM抗体値の問題は無かった。一方、抗ムンプスIgM抗体陽性を指標としたムンプス不顕性感染による突発難聴は全突発難聴の7〜8%程度存在することが確認された。さらに抗ムンプスIgM、IgG抗体共に陰性であるムンプスウイルスにnaiveな成人も前回の我々の報告とほぼ同等の約10%程度存在することも判明した。ムンプス予防接種が任意接種であること、接種率が30%弱程度であること、ワクチン出荷数も任意接種が開始された1981年と同等の約50万件であることなどより、重要な感覚器である聴覚を守る-難聴予防-という立場からムンプスワクチンによる予防とその啓蒙が必要不可欠であると考えられた。 剖検症例や、稀ではあるが脳神経外科での悪性腫瘍の手術で蝸牛を摘出するような症例での検索を予定していた。しかしながら、当院で死期を看取らない方が増えてきたこと。また剖検症例数自体の減少、さらに開頭許可め得られる症例が乏しいこと、そのうえ開頭後電気ドリルで側頭骨に切り込むことは許可が極めて下りづらい流れとなってきた。側頭骨の比較的奥に位置する蝸牛ラセン神経節における剖検例での検索には残念ながら至らなかった。現実的には貴重な臨床症例から当方が望みうるヒト蝸牛などの深部組織検体(できるだけ新鮮な状態で)を御了解下に提供して頂くことは、なかなか容易でない時代になってきたというのが実感である。 ウイルス学的検索はヒトにおける検索が望ましいが、サンプル採取の問題・困難さが常につきまとう。超低温保存献体例や、極めて少ないが脳神経外科との連携をさらに密にして了解のもとでの臨床例でのサンプル採取・解析を進めていくしかヒトでの解析は難しいと考えられる。
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