研究概要 |
蝸牛における音の受容に関しては、高カリウムと低ナトリウムという特殊な内リンパのイオン環境が必要であり、蝸牛内リンパ静止電位や内リンパの各種イオン濃度の計測とともに各種のイオン輸送機構局在の解析が重要である。今年度、我々はC57BL/6マウスを用いてトランスジェニックマウスを作成し、Na-K-Cl cotransporter(NKCC)に注目して蝸牛における局在を検討した。ヒトにおけるCLC_KB遺伝子は腎臓遠位尿細管に特異的に遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであることが証明されている。我々はC57BL/6マウス胚にヒトのCLC-KB(12kbp)を注入しトランスジェニックマウスを作成してenhanced green fluorescence protein(EGFP)を用いてクロライドチャネルの局在を検討した。その結果CLC-KBは、血管条のみでなくらせん靭帯typeII, typeIV, typeV, limbal fibrocyte, interdental cellやラセン神経節の近傍細胞にも局在することが判明した。これはNa-K-ATPaseの局在と一致しており、NKCCはNa-K-ATPaseとともに細胞容積やカリウムイオン輸送に関与することが示唆された。また、このような染色パターンから、ラセン靭帯における線維芽細胞同士が互いに連絡を取りあって、イオン輸送関連酵素活性を変化させることにより、この部位におけるイオン輸送を正常な状態に保つように順応して特殊な蝸牛の内リンパイオン環境を維持することが予想され、さらにNKCCを通して細胞にナトリウムイオンとカリウムイオンを伴うCLCを通して塩素イオンを再利用する可能性があることも示唆された。
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