研究概要 |
蝸牛における音の受容に関しては,高カリウムと低ナトリウムという特殊な内リンパのイオン環境が必要であり,蝸牛内リンパ静止電位や内リンパの各種イオン濃度の計測とともに各種のイオン輸送機構局在の解析が重要である.今年度,我々はII型糖尿病モデルマウスであるBKS. Cg-m+/+Lepr^<db>を用いて6週,12週,18週,24週の時点でABRとDPOAEの測定を行い,DPレベルの低下した時点において組織学的検討を行った.ABRでは6週齢の時点ではホモ接合体,ヘテロ接合体,野生型,すべて正常聴力を呈したが,ホモ接合体は12週齢になると難聴を生じた.ホモ接合体の難聴はその後も徐々に進行し,18週齢では60dB,24週齢では90dB以上になった.DPOAEにおいて,野生型とヘテロ接合体は18週齢にまでDPレベルがノイズレベルより高値を示したのに対して,ホモ接合体は12週齢の時点でDPレベルがノイズレベルと同じレベルにまで低下した.形態学的な検討は12週齢のホモ接合体と野生型について行った.ホモ接合体は,蓋膜,有毛細胞に明らかな障害はなく,ラセン神経節細胞数の減少は認められなかったものの,第2回転付近の血管条の一部に変性が認められた.野生型については形態的にも異常は認められなかった.この結果によりBKS.Cg-m+/+Lepr^<db>ホモ接合体の難聴は外有毛細胞の脱落以前に,血管条障害による蝸牛内リンパのイオン輸送機構の障害により引き起こされた静止電位の低下によっておこることが示唆された.
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