1.はじめに われわれは乳突蜂巣が何らかの形で中耳腔の換気作用に寄与している可能性を指摘してきた。そして中耳腔には血管内と中耳粘膜を介した経粘膜換気が存在しその換気は主に乳突峰巣で営まれていること、乳突蜂巣の炎症や乳突削開術により経粘膜換気が障害されることを明らかにしてきた。しかし乳突蜂巣の形態物理的特性(体積、表面積)を正確に計測した報告は極めて少なく、また経粘膜換気作用と乳突蜂巣の果たす役割を直接的に論じた報告は皆無であった。そこで今回は乳突蜂巣の体積、乳突蜂巣の表面積、経粘膜換気能の3つのパラメーターを設定し、同一症例でこれらを計測し、それぞれの関係を検討した。 2.方法 当科で手術を施行した乾燥性鼓膜穿孔患者10例を対象として、全身麻酔導入後の中耳圧変化を計測した。通常の気管内挿管、GO-セボフルレン(FiO2:0.4)による全身麻酔導入後、笑気ガスの拡散による中耳圧上昇を計測した。また同一症例の側頭骨CT画像を画像解析ソフトウエアを用い解析、1スライスずつ中耳含気腔(乳突蜂巣)の断面積、粘膜表面長を計測、演算処理により計測した中耳腔全体の体積、粘膜表面積を求めデータベース化し保存した。 3.結果、考察 (1)経粘膜換気能と中耳腔含気腔の表面積との間には正の相関関係が認められ、経粘膜換気は中耳粘膜の広さに依存していた。 (2)中耳含気腔の体積と表面積には正の相関関係が認められ、中耳腔は含気蜂巣構造により体積に見合った表面積を有していた。 (3)含気蜂巣を持つという形態的特徴は経粘膜換気という生理作用にとって合目的と考えられた。
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