研究概要 |
わが国における網膜色素変性症の有病率はほぼ3千人に1人であると言われ、その大部分は眼症状のみを示すが、ときに部分症状として難聴がみられ、Usher(アッシャー)症候群はその代表である。遺伝性の網膜色素変性症の29%はUsher症候群であったとの報告があり、人口10万人に対し外国では2.2〜6.2人の頻度でみられ、我が国では1978年の報告で、人口10万人当たり0.6人との報告がある。網膜色素変性症の中で聴覚障害を来す頻度はもっと高い可能性があるのに、我が国における現状は不明と言っても過言ではない。そこで、網膜色素変性症の中で聴覚障害の現状について全国疫学調査を行った。日本網膜色素変性症協会3200人の会員に、アンケート用紙を送付した。834名から返答があり、回収率は26%であった。834名中、828名が眼科で網膜色素変性症と診断されていた。今回の対象者の視覚症状平均自覚年齢は31.7歳であった。難聴を自覚している者は29.5%(244名)、平均自覚年齢は39.2歳であった。その中で耳鼻科で聴力検査を受けたことがある者は72.5%、補聴器を持っている者は23.4%にみられた。難聴の自覚があっても、耳鼻科を受診していない方が多い印象である。耳鳴りを自覚している者は全体の30.4%(252名)、難聴の自覚はないが耳鳴りを自覚している者は12.3%(102名)であり、難聴または耳鳴りのある者は全体の42.8%(346名)に認められた。網膜色素変性症に難聴または耳鳴を伴う60歳以下の頻度は人口10万人に対し、7.0人と計算された。地域的には北海道は10万人に4.7人と最も頻度が低く、九州・沖縄は10万人に対し8.5人と最も頻度が高かった(英文雑誌投稿中)。イギリス・ドイツから報告されている頻度に類似した結果であった。Usher症候群は、症状によって3つのタイプに分けられている。タイプ1は幼小児より高度な難聴が見られ、時々めまい、ふらつきを伴い、網膜変性も10歳前後で生じてくる。タイプ2は若年の頃より中等度の難聴が見られ、めまい、ふらつきは伴わない。タイプ3は難聴、網膜変性とも思春期以降に生じ、難聴は徐々に進行する。今回の検討でめまい・ふらつきと難聴の進行の頻度が多くみられた事から、タイプ2、3の頻度は多いと推測された。難聴の進行がみられるUSH2A, USH3遺伝子の検索と臨床データの解析が今後必要であり、進めていきたいと考えている。
|