内リンパ嚢は、内耳液の吸収や異物除去、免疫応答に関与する器官であることが報告されているが、その機能の詳細は不明な点が多い。われわれは、内リンパ嚢の物質輸送能について、エンドサイトーシスを観察することによって検討した。このエンドサイトーシスは、細胞内と細胞外の物質交換や、免疫応答、蛋白発理や細胞分裂などのシグナルシステムに関与しており、生命活動において重要な役割を担っている機能の一つである。 今回の実験方法は、エンドサイトーシスを観察するために3種類のトレーサーを人工内リンパ嚢液に混じ、モルモットの内リンパ嚢腔内に注入した。使用したトレーサーは、カチオンカフエリチン(CF)・ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)・マイクロパーオキシダーゼ(MPO)である。これらにトレーサーの特徴としては、CFはレセプターを介するエンドサイトーシスのトレーサーであり、HRPとMPOはレセプターを介さず、液層のエンドサイトーシスのトレーサーである。観察は、トレーサー注入後30分経過時点、透過型電子顕微鏡を用いて行った。 各トレーサーはこれまでの報告と同様に、内リンパ嚢中間部上皮において最も活発に取り込みが認められた。しかしながら、CFとMPOはHRPに比べ、エンドサイト内に取り込まれる量が少なかった。 この結果からは、内リンパ嚢腔上皮における物質取り込みの様式としては、レセプターを介するよりもレセプターを介さない液層のエンドサイトーシスが主たるものと考えられる。HRPとMPOの取り込み量の違いに関しては、分子の大きさの違いによると考えられる。HRPは分子量が40000MWで径が約5nm、MPOは分子量が1900MWで径が約2nmである。内リンパ嚢の機能の一つに異物除去能があることから推察すると、上皮細胞が異物を認識するためには、一定以上の分子量が必要なのかもしれない。
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