超伝導量子干渉装置(SQUID : super-conductive quantum interferece device)により、中枢神経活動に伴って発生する微弱な磁気を非侵襲的に記録し、神経活動の部位をミリ単位で同定することができる。嚥下障害は生活の質(quality of life)を大きく低下させるだけでなく、患者の早期の社会復帰や自立を妨げる大きな要因となっている。しかし過去の研究の多くは動物での脳幹嚥下中枢より末梢に関してであり、嚥下障害の原因の大多数を占める脳梗塞や脳出血で侵される大脳皮質の嚥下に対する機能はほとんど知られておらず、有効な臨床診断と治療が未発達である。 最近では脳波やfMRI、PETなどの検査法も開発されているが、いずれの方法も嚥下の研究には空間的、時間的分解能が十分でない。今回の研究では、これまで進めてきた独創的な手法を用いて、臨床検査を視野におきつつ、SQUIDの持つ高い感度と空間的時間的分解能により嚥下に果たす大脳の役割を解析した。 今回、正常被験者6名の甲状舌骨筋より咽頭期嚥下の指標として筋電図を記録し、随意的な繰り返し嚥下運動中に中枢で誘発される磁気を加算記録することができた。この結果、甲状舌骨筋の活動に数十ミリ秒先行して大脳皮質弁蓋部および島皮質に神経活動を同定することに成功した。この部位は味覚に関与している部位の前方にあたる。このことから嚥下の口腔期に大脳弁蓋部および島皮質に発生する中枢神経活動が咽頭期嚥下を惹起するメカニズムに関与すると考えられる。
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