研究概要 |
【目的】今回の研究は,頭頸部癌に対する新たな治療として,アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療を中核とする集学的治療の開発を目指して行った.AAVベクターは,安全で宿主域も広く有用なベクターであるが,一本鎖DNAであるAAVベクターが二本鎖となる効率が低く,遺伝子発現が不十分であることが欠点の1つである.今回の研究では,抗癌剤がAAVベクターの二本鎖合成を促進することを利用し,抗癌剤とAAVベクターを用いた遺伝子治療を併用して抗癌剤,遺伝子治療それぞれの効果のみならずAAVベクターを用いた場合に特有の増強効果を引き出すことを目的に実験を行った.更に,これまでに得られた基礎データに基づいて動物実験を行い動物モデルを用いたAAVtk/GCVの抗腫瘍効果を検討した.【方法】LacZ遺伝子または自殺遺伝子である単純ヘルペスチミジンキナーゼ遺伝子を組込んだAAVベクター(AAVLacZ,AAVtk)を作製し,これらをヒト喉頭癌由来のHEp-2細胞及びHeLa細胞に感染させ,増強効果が最も期待できる抗癌剤であるトポイソメラーゼ阻害剤(カンプトテシン・エトポシド)の有無による遺伝子発現効率の変化,ガンシクロビル(GCV)に対する感受性の差を検討した.更には,二本鎖合成促進作用につき検討した.次に,BALB/cマウスの皮下に頭頸部癌細胞株を移植し動物モデルを作製した.現在までの感染実験のウイルス量等を参考として,この動物の腫瘍にAAVLacZを直接注射し,その後,腫瘍の切片を作製しX-gal染色で遺伝子発現を確認した.治療実験は,AAVtkを腫瘍に注入し,HSVtkの発現が最も高まると予想される時期に腹腔内にガンシクロビルを投与して腫瘍体積の経時的変化を観察する.【結果】AAVtk/GCV単独でも90%以上の細胞を死滅させることが出来るなどAAVベクターを用いた遺伝子治療は癌細胞に対して十分な効果を示した.更に,抗癌剤は,この効果をカンプトテシンで約9倍,エトポシドで約5倍まで増強した.このような増強効果は,サザン解析の結果から,抗癌剤がAAVベクターのゲノムの二本鎖合成の過程を促進したためと考えられた.更に,動物実験では,コントロール群(AAVLacZ/GCV,AAVtk/PBS)と比較して治療群(AAVtk/GCV)は有意に腫瘍増殖が抑制された.この結果は,AAVベクターと抗癌剤併用治療の有用性を示唆する.
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