対象と方法 疲労が空間識に与える影響を調べるために、健康被験者10名(男性6名、女性4名、19歳から24歳、平均21.4歳)に徹夜負荷を与え、翌朝にクレペリン試験と静止ならびに回転中の身体動揺を重心動揺計で記録した。徹夜中はゲームを行わせ、仮眠の機会を与えなかった。7時間以上の十分な睡眠を取った翌朝に実施した検査結果と比較した。予め実験内容を説明し、同意の得られた被験者を対象とした。 結果 静止3分間の総軌跡長は睡眠充足日で193.58±18.08cm、睡眠制限日で218.26±19.96cmで両者の間に有意差を認めなかった(p=0.09)。外周面積は睡眠充足日で4.71±0.91cm^2、睡眠制限日で6.60±1.18cm^2で、有意差は見られなかった(p=0.08)。同様に回転中の総軌跡長は睡眠充足日で632.72±69.0cm、睡眠制限日で678.37±106.52cmで有意差を示さなかった(p=0.63)。外周面積は睡眠充足日で24.82±4.71cm^2、睡眠制限日で36.35±10.81cm^2であり、同様に有意差は見られなかった(p=0.23)。 クレペリン検査では、睡眠充足日の総正解数は10020、エラー総数は60であった。睡眠制限日の総正解数は10837、エラー総数は51であった。本検査では、後に算を実施した睡眠制限日の結果の方がむしろ良好な結果であった。 考察と結論 夜勤労働や睡眠制限は疲労の大きな要因であり、しばしばめまい患者の生活背景として見られる。脳疲労がどの程度、身体平衡や知的活動に影響するかを知る目的で、今回睡眠制限負荷実験を実施した。予想に反して、重心移動記録からもクレペリン検査からも、徹夜が機能を悪化させる所見は得られなかった。別の実験で看護士の夜勤明けと通常勤務明けで、自覚的疲労度とストレスマーカー(血漿バソプレッシン、副腎皮質ホルモン、血小板凝集能など)を調べる検査を継続中である。現時点では夜勤明けで疲労度は明らかに増加するものの、ストレスマーカーの増加は見られていない。これらを総合すると、一晩の徹夜はさほどの身体的ストレスにはならず、脳機能をも低下させない、と言える。
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