研究概要 |
これまでに、ウイルス性急性扁桃炎または急性咽喉頭炎が疑われた患者および、唾液腺疾患で手術を受けた症例の計61症例から得られた検体と、健常者30名の唾液を検体としてウイルス分子生物学的検索手段の検証を行った。 凍結保存およびホルマリン固定した検体組織と末梢血単核球からはDNAを抽出し、PCR法にてEBウイルス(EBV)・ヒトヘルペスウイルス6および7(HHV-6,7)の検索を行った。ホルマリン固定標本からは病理組織学的変化を観察し、免疫組織化学にて単純ヘルペスウイルス(HSV)および水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)抗原の検出を試みた。またEBV感染症の疑われた症例にはin situ hybridizationを行い炎症局所からのEBV検出を試みた。健常者の唾液からは、DNA抽出処理し同様にPCR法にてEBV、HHV-6、HHV-7の検索を行った。 対象症例中、臨床所見、病理組織診断および血清抗体などの従来の臨床検査にてウイルス感染症と診断できたのは、それぞれHSV3症例、VZV1症例、EBV15症例であった。一方、今回検証した検体組織と末梢血単核球からのPCR、免疫組織化学検査およびin situ hybridizationによってHSVを5症例、EBVを12症例、HHV-6を5症例から検出した。EBVを検出した12症例はそれぞれの血清抗体価測定より,EBV初感染が3例,既感染者が9例でうち2例のみ再活性化を示した。今回の検討でHHV-7およびVZVを検出した症例と、2種類以上のウイルスを検出した症例はなかった。局所の組織の分子生物学的検索は、HSVおよびHHV-6においては従来の診断手段に比べ感受性が高いが、EBVにおいてはむしろ低い結果であった。EBVについてさらにRT-PCR法にて,既感染者が9例で再活性化を示した例と示さなかった例との間に有意なEBVのRNA発現様式の差違を検討中である。また、健常者の唾液からはいずれのウイルスも検出されなかった。今後さらに唾液の検体数を増やすと同時に、新たな検出法を模索し、感受性および特異性に対する検証と,疾患別のウイルス検出率やウイルス検出量の相関の有無を来年度以降検討する予定である。
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