本年度の研究目的は、COCH遺伝子発現の2つの特異性、つまり組織特異性、発生過程の時期特異性の検討である。 先ず動物臓器蛋白を用いて、ウェスタンブロッティングにより臓器別のCochlin発現レベルの検討を行った。抗Cochlin抗体で陽性の臓器は内耳、大脳、小脳、脾臓、胸腺の5個であった。内耳以外の臓器に発現している蛋白は、内耳に発現しているCochlinアイソフォームの分子量とは異なっており、これらの臓器にはCochlinと相同性の高い配列を持つ蛋白が発現していると考えられる。また、内耳以外の臓器での抗Cochlin抗体陽性蛋白の発現量は、内耳の10から100分の1程度であった。これらの結果からCochlinは、他の遺伝性難聴原因蛋白とは異なり、その発現の内耳特異性が非常に高い遺伝子であることが判明した。 さらに、内耳でのCochlin発現を検討するため、我々は抗Cochlin蛋白抗体を用いて免疫染色を行い内耳発現の局在を検討した。ラット過牛の染色ではアイソフォームp60はコルチ器を含めたより末梢側、p40は蝸牛軸まで及ぶより中枢側に発現を認めた。各アイソフォームごとの発現部位を前庭系を含めて更に詳細に検討している。対象組織としてラット、ヒト内耳を用いている。ヒト内耳組織切片は共同研究者であるスウェーデン・ウプサラ大学のRask-Andersen博士から供与され現在免疫染色は順調に進んでいる。 さらに、今後COCH遺伝子の時期特異的発現の検討を行う。つまりラットを用いてその発生過程におけるCochlinの発現を免疫組織学的に検討する。
|