「はじめに」内耳に遺伝子を発現させてそれを治療に応用する際に最も重要な点は、その標的特異性にある。遺伝子が、周囲組織の中枢神経系などに発現した場合予想できない副作用が生ずる。遺伝子治療に用いる標的特異性は一般に2つの方法によってもたらされる。一つは特定の細胞に遺伝子を発現させる方法(転写調節によるターゲティング)、一つは特定の細胞に遺伝子を導入する方法(細胞ターゲティング)である。今回我々はCOCH遺伝子プロモーターを用いた、転写調節による内耳ターゲティングをおこなうことを最終目標にしている。 「目的」 ・COCH遺伝子発現の2つの特異性、つまり組織特異性、発生過程の時期特異性の検討 ・COCH遺伝子転写の制御エレメント、プロモーターとエンハンサーを明らかにする ・このプロモーターを内耳遺伝子治療に応用する 「結果」 その1 COCH遺伝子発現の組織特異性を検討した。その結果からCochlinは、他の遺伝性難聴原因蛋白とは異なり、その発現の内耳特異性が非常に高い遺伝子であることが判明した。 その2 COCH遺伝子発現の発生過程の時期特異性を検討した。 染色は主にラセン板縁およびラセン靭帯に認められた。コルチは弱く、ラセン神経節、血管条は染色されなかった。またラセン板縁は成長を通じ、染色の強さはあまり変わらなかったが、ラセン靭帯は24日以降の内耳で強く染まるようになった。 その3 COCH遺伝子の発現特異性を担うプロモーター領域の解析を行った。ヒトゲノム解析の結果を参考にしながら、ヒトgDNAにおけるCOCH遺伝子上流の遺伝子配列800bp程度を決定し、クローニングしたトランスフェクションを行う繊維芽細胞プライマリカルチャーを行っている。 「考察」 COCH遺伝子の発現制御の研究およびプロモーターのクローニングは内耳の遺伝子治療に新たな道を開く重要なアプローチと考えられる。
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