骨髄幹細胞を含む骨髄細胞の移植(骨髄移植)を用いて、以下のことを行った。 1.螺旋神経節細胞の早期萎縮により早期老人性難聴が生じるSAMP1マウスをホストとして用いた。このマウスの蝸牛障害発症前において、放射線照射により免疫担当細胞を除去したのち骨髄移植を行った。この際、骨髄ドナーには老人性難聴の発症の遅いマウスを用いた。骨髄移植効果を検討したところ、移植されたドナー細胞は、ホスト内でホストの免疫担当細胞と置き換わり、かつ難聴発症は予防されることが明らかとなった。したがって、骨髄細胞が早期老人性難聴発症を阻止すると考えられ、早期老人性難聴の原因は蝸牛側にあるのでなく骨髄(幹)細胞側に存在し、これが蝸牛における機能維持に働くことが明らかになった。 2.蝸牛障害マウスを作製し、障害部位の再生を検討する目的で、聴力正常マウス(BALB/c)にシスプラチン(CDDP)を投与し、螺旋神経節細胞を傷害させ難聴を発症させる方法を確立した。今後この蝸牛障害マウスを用い、シスプラチン投与前後に骨髄移植を行ってドナー骨髄細胞による螺旋神経再生と難聴の予防・治療効果を観察する。 3.自己免疫性感音難聴のモデルマウスであるMRL/1prマウスにおいて、この骨髄を聴力正常マウスに移植すると、MRL/1prマウスと同様の蝸牛病変および難聴が生じることを明らかにした。この難聴マウスでは血管条の細胞萎縮が生じる。したがって、細胞萎縮の原因が蝸牛側にあるのではなく骨髄側にあることが示唆された。今後、聴力正常ドナーからの骨髄を用いた骨髄移植により、蝸牛萎縮の修復や再生による難聴の治療の可能があると考えられた。
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