研究概要 |
まずin vitroで生理的状態を反映するために,網膜色素上皮細胞(RPE)をlamininコーティングしたフラスコ上にbFGF添加培地を用いて培養し,分化形質を誘導した。つぎに酸化ストレスとして培地中に100μMおよび200μMのH_2O_2を添加して培養し,48時間後に細胞のRNAおよび培養上清を採取した。つぎにこのRNAと培養上清を用いてRT-PCR, ELISA, Western blotting法を行い,酸化ストレス負荷時のRPEにおける血管内皮増殖因子(VEGF)とpigment epitheliun-derived factor (PEDF)の発現変化を調べた。その結果,VEGFについては分化状態で約8μg/mlという高濃度のVEGF蛋白の発現がRPEの培養上清中にみられ,酸化ストレス負荷時にもVEGFのmRNAレベル,蛋白レベルともに発現低下はみられなかった。しかし一方,PEDFについては,分化状態でやはり高いPEDFmRNA, PEDF蛋白の発現がみられ,H_2O_2の負荷によりdose-dependentにPEDFnRNA, PEDF蛋白の発現低下がみられた。 つぎに,上記の酸化ストレス負荷時のVEGFとPEDFの発現変化が実際に血管新生に及ぼす影響を解明するために,48時間H_2O_2を添加して培養したのち,培地交換して得られたRPEの培養上清を1:1に希釈して血管新生キット(KURABO)に添加して培養を行った。1週間後に固定し,キット中の臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の血管内皮細胞をvon Willebrand factorで染色し,形成された血管腔の長さを定量し比較検討した。その結果,分化状態のRPE培養上清は有意に血管腔の形成を抑制したが,酸化ストレス負荷時のRPE培養上清はHUVECの血管腔愛成.を著明に促進した。以上これまでの実験成果から,酸化ストレス負荷により,分化RPEからのVEGF発現は高いまま変化しないものの,血管新生抑制因子であるPEDFのみが有意に発現低下することにより,両者のバランスが崩れ,その結果,血管新生に促進的に作用するということが明らかにされた。
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