本年度はこれまで設営した計測系、基礎データを応用し臨床データを取得して考察を展開した。核磁気共鳴拡散強調画像の設定により視覚に関わる神経系のみかけの拡散を定量評価することにより、慢性期の視神経萎縮ではそれに応じた神経線維方向へのの拡散の増強が認められ、解剖学的構造とよく一致していた。また下垂体腫瘍により視交叉が圧迫上方偏位した時の特異的形態変化も捉えることができた。機能的脳機能画像からは滑動性眼球運動と衝動性眼球運動に関わる脳活動を記録し、眼球運動に重要な脳構造である小脳虫部が両者の制御に関わることを明らかにした。この実験では試行した被検者全員から活動記録が得られ、全員で第VII小葉の活性化が記録された。眼球運動記録では両眼同時のビデオ画像処理システムを確立し、瞳孔運動を含めて臨床データを取得し、特に輻輳の特性を明らかにするのに有用なシステムであることを実測値から明らかにした。輻輳運動における中心視差と傍中心視差の相互関係を明らかにし、視差誘導性輻輳運動において、傍中心窩に提示された視標の大きさや太さが極めて大きな影響を与えることを明らかにし、運動の特性が視覚的注意を向けた視差のみで決定されるという説に反論するデータを得た。また、視差の位置誘導性の輻輳運動よりも視差の速度誘導性の輻輳運動の方が潜時が短く、視標の位置変化に応じる衝動性眼球運動よりも視標の速度に応じる滑動性眼球運動の方が潜時が短いことと対応しており、輻輳運動は単一ではなく種々のsubtypeがあることを考察した。その上で、近年上位中枢で3次元的な視標の動きの制御に関わる細胞が見出されたことを受け、純粋なsubsystemと考えられていた輻輳運動系を眼球運動系全体の中でどう位置づけたら良いのか理論的に考察した。以上、視覚系から運動系まで広くデータを取得し知見を深め、包括的な考察を試みた。
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