血液房水柵は虹彩血管内細胞と毛様体の無色素上皮細胞より構成され、前眼部の代謝維持に大きく関与している。ぶどう膜炎等の病的状態ではこの柵が破綻し、前房内蛋白と細胞が増加し、フレアが上昇する。我々は実験的ぶどう膜炎や、臨床的にフレアが上昇する病態で、各種薬剤の影響を調べた。シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)阻害剤、COX-2阻害剤、ステロイド剤、ロリプラム、カルシウム・チャンネル・ブロッカー、各種和漢薬や、その成分を前投与することで、前房フレア上昇が阻止されることを報告してきた。 ラットの皮下に細菌由来の内毒素リポポリサッカリド(LPS)を少量投与すると、前房内のフレア・蛋白と細胞が特異的に上昇し、ぶどう膜炎が誘発される。LPS誘発ぶどう膜炎は、好中球の活性化や、nuclear factor(NF)-kappa B translocationを介し、各種のサイトカインが産生されて病変がおこることが考えられている。好中球が活性化されるとS100ファミリーの中のS100A8/S100A9蛋白が増加する。それ故、S100A9抗体、BAY11-708(NF-kappa B inhibitor)、N-acetyl cysteine(NF-kappa B inhibitor)の影響を調べた。ラットにデキサメタゾンを前投与すると、LPS誘発ぶどう膜炎(前房内蛋白増加)は著明に抑制された。ラットにS100A9抗体を前投与すると、LPS誘発ぶどう膜炎は抑制され、前房内蛋白と細胞の上昇が阻止された。ラットにBAY11-708またはN-acetyl cysteineを前投与すると、前房内蛋白と細胞の上昇が阻止された。また、ICAM-1等のサイトカインの上昇も抑制された。これら薬剤を用いたぶどう膜炎の治療の臨床応用の可能性が示唆された。
|