上斜筋の機能は、眼球の下転、外転、内方回旋であるが、そのうち他の筋で代償されることが少なく、複視の原因となるのは、回旋機能である。先天性の場合には、問題になることは少ないが、後天性上斜筋麻痺では大きな問題となる。その一方で正常者は広い範囲の回旋偏位に適応できる。すなわち生理的な回旋変位と病的な回旋変位にたいする適応には大きな違いがあることが示唆されている。このように多くの未解決な問題を含む上斜筋に関する研究を、1)眼球の回旋運動と外眼筋の構造2)眼球の回旋と両眼視機能の二点に対して行った。 1)外眼筋の構造と眼球運動では、上斜筋麻痺では上斜筋の形成が不良な場合、上下偏位だけでなく、外斜視にもなりやすいことと、手術による矯正に際しては、より多くの筋の操作が必要であることが認められた。後天性固定内斜視では、外眼筋の位置と眼球の関係が崩れているために、それを補正する手術が有効であることを報告した。そのためには術前に画像診断を行うことが重要であることを確認した。回旋複視を軽減するための手術方法を開発し、手術によって引き起こされる眼球と外眼筋の位置の変化を画像診断で確認した。眼球を大きく回旋させる斜視手術を行っても、眼窩後方では外眼筋の位置は変化せず、変化は眼球赤道部付近でのみ起きることを明らかにした。 2)眼球の回旋と両眼視機能の関係については網膜回転術後の複視にたいして、網膜回旋量と、複視の自覚の関係を検討した。その結果、15度を超える網膜回転術が行われた際に複視を自覚することが多いことが明らかとなった。また、正常人では、15度までの感覚適応がおきるが、網膜回転術を受けた患者でも約15度の感覚適応がおきていることを明らかにした。先天性上斜筋麻痺では両眼視機能が良好なことが多いが、その中でも、上斜筋の形成異常の一つであるテノン嚢内迷入の症例では、両眼視機能が不良なことが多く斜視手術を行っても、両眼視機能の回復は困難であったことを報告した。
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