研究概要 |
本年度は、1)ヒト涙液中のLipopolysaccharides(LPS)関連タンパク質(LPS-binding protein, LBPおよびsoluble[s]CD14)の存在の有無、2)LBE,sCD14の培養ヒト角膜実質細胞のintercellular adhesion molecule(ICAM)-1、interleukin(IL)-8産生に対する作用、3)家兎角膜実質内へのLPS投与の角膜臨床像への作用について検討を行った。 1)健常人ヒト涙液中にはLBP、sCD14が含まれていた。その濃度はそれぞれおよそ1microg/mlと400ng/mlであり、同条件で測定を行った同一者の血清中のLBP、sCD14よりも低い値であった。これらのタンパク質の涙液中の濃度は血清中の濃度とは無関係であった。 2)LBP、sCD14はLPS刺激で誘導されるICAM-1やIL-8の発現を濃度依存的に亢進した。LBP、sCD14ともに涙液中の濃度よりも血清中の濃度での作用がやや強かった。 3)家兎角膜内へのLPSの投与により角膜混濁をともなう角膜潰瘍が出現した。角膜潰瘍は一過性であり、特に治療を行わなくても自然に瘢痕を残して治癒した。組織学的には潰瘍部の角膜には好中球の浸潤がみられた。 今回の研究を通じて、角膜の細胞、特に角膜実質細胞が前眼部の自然免疫系の一部として機能していることが明らかになった。これらの細胞はグラム陰性菌に共通の構成成分であるLPSを認識して、好中球遊走・活性化因子であるICAM-1やIL-8を産生して炎症反応の惹起に重要な役割を果たしている。また、涙液中の成分であるLBP、sCD14などはLPSの認識を促進している。
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