研究概要 |
角膜の先天免疫機構を明らかにするために以下の事柄を明らかにした。 1)培養ヒト角膜線維芽細胞はLPS受容体であるToll-like receptor (TLR)-4,cluster of differentiation (CD)14分子を発現している。TLR-4の細胞膜上への適正な分布に必須なタンパク質であるMD-2も発現している。 2)E.coli, P.aeruginosa, S.minnesota由来のLPS刺激に対して角膜実質細胞のIL-8、MCP-1、ICAM-1の発現は増大した。この反応は量、時間依存性であった。これらの生理活性物質の発現に対する作用はE.coli>S.minnesota>>P.aeruginosaであった。 3)健常人ヒト涙液中にはLBP、sCD14が含まれていた。その濃度はそれぞれおよそ1micro g/mlと400ng/mlであり、同条件で測定を行った同一者の血清中のLBP、sCD14よりも低い値であった。これらのタンパク質の涙液中の濃度は血清中の濃度とは無関係であった。 4)LBP、sCD14はLPS刺激で誘導されるICAM-1やIL-8の発現を濃度依存的に亢進した。LBP、sCD14ともに涙液中の濃度よりも血清中の濃度での作用がやや強かった。 5)家兎角膜内へのLPSの投与により角膜混濁をともなう角膜潰瘍が出現した。角膜潰瘍は一過性であり、特に治療を行わなくても自然に瘢痕を残して治癒した。組織学的には潰瘍部の角膜には好中球の浸潤がみられた。 今回の研究を通じて、角膜の細胞が前眼部の自然免疫系の一部として機能していることが明らかになった。これらの細胞はグラム陰性菌に共通の構成成分であるLPSを認識して、好中球遊走・活性化因子を産生して炎症反応の惹起に重要な役割を果たしている。また、涙液中の成分であるLBP、sCD14などはLPSの認識を促進している。
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