研究概要 |
肝芽腫では、β-cateninを転写因子とするWntシグナルについての異常が高頻度に認められ、肝芽腫発生にこのシグナル伝達の異常が関わることが推測される。β-cateninの分解に重要な作用を有するAxinについて、肝芽腫における関与を検討した。 1.22例の肝芽腫を対象とし、10個の全exonにつき24の部位に分別し、SSCP法により変異の検出を試みた。検出された異常はsequence法にて詳細を決定した。 2.SSCP検索で、exon2,5,6,7,10の5つのexonで電気泳動上異常バンドを認めた。 3.sequence法により確認された塩基異常は合計で12箇所で、いずれも1塩基の置き換えからなり、8個はexon内に4個はintron内に存在てした。 4.exon内の変化のうち7個はアミノ酸配列には影響を及ぼさず、intron内にみられた4個の変化とともに病因には関連しない塩基変化であると考えられた。しかしexon2のcodon95にみられたACG->ATGの変化は、THR->Metのアミノ酸変化をもたらすmissense変異であった。 5.Thr95Metの変異は22例中1例の肝芽腫のみに認められ、変異遺伝子は正常アリルと並存するにheterogeneousなものであり、またこの症例の非腫瘍組織にも同様の変異が確認されたことからgermline変異として存在することが確かめられた。また、この症例はβ-cateninの異常は有さないもののAPC遺伝子異常が確認されており、Axinのgermline変異がAPC変異と相まって腫瘍発生に関連したことも推測された。 肝芽腫においては、高率にβ-catenin遺伝子異常が検出されるが、同じくWntシグナルの因子であるAxinについても変異を呈する例が確かめられた。肝芽腫の成因・増殖にWntシグナルが関わることを強く示唆するものと考えられる。
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