小児肝悪性腫瘍である肝芽腫や肝癌において、β-カテニン遺伝子を中心としたWntシグナル異常が高頻度に認められる。この結果、細胞内でのβ-カテニン蛋白の過剰発現と核への異常集積が生じ、腫瘍形成に関連すると考えられている。本研究ではβ-カテニン発現抑制による分子標的治療の可能性を探る目的で、RNA干渉を用いた遺伝子発現抑制実験を行った。 実験対象として小児症例由来である肝癌細胞株HepG2を用いた。まずこの細胞株にはβ-カテニン遺伝子の遺伝子内欠失変異(コドン25〜141の欠失)があることをRT-PCR、塩基配列法にて確認した。また、抗β-カテニン抗体を用いた蛍光免疫染色にて、この細胞にはβ-カテニンが核に異常集積していることも確認された。次にHVJ-エンビロープを用いて、β-カテニンsmall interference RNA(siRNA)の細胞導入を行った。細胞導入後のβ-カテニンおよびWntシグナルの下流の標的遺伝子の発現量をReal time RT-PCR法ならびにWestern-blot法にて検討した。また、siRNAにて処理した細胞の細胞増殖能の変化についても観察した。 結果として、HepG2細胞では、β-カテニンのsiRNA処理によりβ-カテニンの発現はRNA、蛋白両者のレベルで著明な抑制が得られた。下流の標的遺伝子としてCyclin D1、c-mycの発現をとその変化を検討したところ、C-mycに於いてβ-カテニンの発現抑制に伴なって同様に発現が低下することが観察された。細胞増殖能については、処理一日後より有意に生存細胞数の低下を認め、4日目までこの細胞数から判定した細胞増殖能に関する抑制は持続した。 本研究により、小児肝斑細胞株であるHepG2においては、RNA干渉によりβ-カテニンの発現は著明に抑えられ、このことはWntシグナルの標的遺伝子の発現も抑制するとともに細胞増殖増殖能に対しても抑制効果を発揮しており、分子標的治療の候補としての可能性が考えられた。
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