胎児に内視鏡的左側横隔膜ヘルニアを作成し、気管閉塞モデルの作成を目的とした。また米国におけるヒト臨床試験の結果も考慮し、研究の方向性を検討した。 方法1)左側横隔膜ヘルニアの作成:a)小動物における基礎的手術手技の検討、b)48時間絶食後の妊娠75日のヒツジ(145日満期)を用いて、ヒツジ胎児に左側横隔膜ヘルニアを作成する。 2)内視鏡的気管閉塞:脳外科血管内留置用detachable balloonを用いた内視鏡的気管閉塞モデルを作成する。 結果1.小動物における基礎的手術手技の検討 妊娠40日モルモット(満期60日)において胎児に内視鏡(径4mm))をもちいて左横隔膜ヘルニアを作成した。重症CDHの病態を検討するため、ラット肝脱出モデルをnitrofenを投与して作成した。 2.内視鏡装置の検討 内視鏡に改良を加え、detachable balloonを用いた内視鏡的気管閉塞を胎生90日に施行した。満期にて帝王切開にて分娩、犠牲死させたが、3例中1例は早期胎盤剥離にて子宮内死亡した。 3.妊娠ヒツジにおける左横隔膜ヘルニアの作成 妊娠75日のヒツジ(145日満期)を用いて、ヒツジ胎児に左側横隔膜ヘルニアを作成した。この際、細径内視鏡を用いて、開腹下子宮壁を穿刺し胎児胸腔より横隔膜に達し電気焼灼にて円形の切開を行った。腹腔臓器は胸腔内に誘導した。 4.ヒト胎児横隔膜ヘルニアrandomized control trial(共同研究協力者Harrison博士) 胎児気管閉塞治療群と出生後新生児標準治療群の臨床経過を比較検討した。在胎22〜27週の重症左横隔膜ヘルニア(肝臓脱出、肺頭比(LHR)1.4未満)を対象とした。生後90日での生存率は気管閉塞群73%(n=8)、標準治療群77%(n=10)(P=1.00)で、両者に有意差を認めなかった。ヒト胎児における横隔膜ヘルニアに対する気管閉塞治療の有意性は確認されなかった。 本研究はあくまでもヒトへの臨床応用のための研究であったが、胎児気管閉塞治療の臨床応用をする根拠が乏しいのが現状となった。今後は、さらに重症のLHRO.9未満の重症横隔膜ヘルニアについて検討することが課題となる。
|